社長「君が……新しく入った子かね」

女「は、はいっ……！」

社長「ふむ……」ｼﾞﾛｼﾞﾛ

女「ううっ……」

社長「なかなかいい素材だ」ﾆｨ〜

女（この流れ……枕営業を強要されちゃうっ……！）

女（だけどいいの。覚悟はできてる。この業界で高みを目指す上で必須の関門、枕営業）

女（いい役を射止めるためなら、枕営業の一回や二回……いや百回や二百回こなしたるわい！）

社長「よろしい」

女（来る……！　『抱かせろ』『断ればお前の居場所はない』『代わりなど腐るほどいるのだ』の三連コンボ！）

女（ククク、想像するだけで興奮してきたわい）

社長「さっそく君には一流の講師をつけてやろう」

女「え？」

社長「まずは演技の基礎を身につけて、じっくり実力を養いたまえ」

女「分かりました」

女（なるほど……じらしよるわ）

女（枕営業を強要すると見せかけあえて強要しない“フェイント枕”！　こういう技もあるのか……）

講師「今日から君に演技指導をします」

講師「どうぞよろしく」

女「よろしくお願いします」

女（あら、なかなかのイケメン……）

女（だけど、分かってる。こういうイケメンこそ人面獣心の輩だということは百も承知！）

女（きっと『指導して欲しかったら抱かせろ』と強要してくるに違いない！）

女（いいだろう、来いよ……。お前の溢れんばかりの性欲、全身で受け止めたるわい！）

講師「さっそく、君の実力を知りたい」

講師「即興で“喜怒哀楽”を表現してもらえるかな？」

女「はい」

女（あれ？　枕営業は？）

女（てっきり枕かと思いきや……“すかし枕”！　この講師、只者じゃねえ！）

講師「じゃあ、まず“喜”から」

女「喜びですか……」

女（枕営業が成功して、いい役をゲットできた喜び……）

女「やったぁ！　嬉しいぃっ！」

講師「……」

女（次は枕営業したのに、脇役しか与えられなかった怒り……）

女「どうして……！？　話が違うじゃないですかァッ！！！」

講師「……」

女（枕営業したが、『君の抱き心地なら湯たんぽでも抱いた方がマシだ』と袖にされた哀しみ）

女「ひ、ひどい……こんなのって……女として屈辱……」ｼｸｼｸ

講師「……」

女（枕営業に慣れてしまい、もはや日課となった楽しみ）

女「たーのしーいっ！」

講師「……」

女「いかがでした？」

講師「ふむ……」

これは才能の塊ですわ

講師「……素晴らしい」

講師「君は磨けば、間違いなく光る！」

女「ありがとうございます！」

女（ふん、見え透いたお世辞を……）

女（この世のものはだいたい磨けば光るようになってんだよ。その辺の石ころだってなんだって）

女（こうやって褒めて褒めて褒めてからの、枕強要！　お前の魂胆は見え透いている）

女（さあ、枕営業を強要するがよい！）

女（上げて落とす“ジェットコースター枕”を体感させてくれェェェ！！！）

講師「始めよう。まず発声練習から！」

女「は、はい！」

女（あれ……枕は？）

講師「腹式呼吸で――」

女「あ、え、い、う、え、お、あ、お！」

女（おやおや？　普通のレッスンが始まってしまったぞ？　枕はどうした？）

女（う〜む、枕営業って奥が深い……）

……

……

社長「ほう、ずいぶんレッスンを重ねたようだな」

社長「まだデビュー前なのに、いっぱしの女優の顔つきになってきた」

女「いえ、そんな……」

女（ついに……ついに枕か！？　枕来ちゃう！？　ワクワクしてきた！）

社長「ついては君に――」

女（来るっ……！　枕っ……！　ベッドインっ……！）

社長「専属のマネージャーをつけようと思う。経験は浅いが、熱意は我が社でもトップクラスだ」

マネージャー「よろしくお願いします！」

女「こちらこそ」

女（純朴で真面目そうな青年ね……と見せかけて分かってるってばよ）

女（こいつの正体が枕営業ばかりやらせる鬼畜マネージャーだということぐらいなァ！）

マネージャー「一緒にスターを目指しましょう！」

女「ええ！」

女（ああ、目指してやるともさ……枕営業界のスターをなァ！！！）

……

……

マネージャー「ごめん、なかなかいい仕事を持ってこれなくて……」

女「ううん、あなたは精一杯やってるわ」

女（なかなか枕営業を持ってこない……じらすねェ、あんちゃん）

女（こちとらいつ枕れても準備OKだってのによォ……）

マネージャー「だけど今度、思いきって、売れっ子監督に売り込んでみようと思うんだ！」

女「頑張ってね！」

女（私程度の女優をまともな手段で売り込めるわけがない……枕の時がついに来たか！）

マネージャー「まだ新人ですけど、演技力には定評があるんですよ」

監督「ふうん……」

女「よろしくお願いします」

監督「たしかに素材はよさそうだ、が……」

マネージャー「でしょう？」

女（なるほど……ここで枕営業というわけか！）

マネージャー『こいつ一晩貸すんでチョイ役ぐらいくれてやって下さいよ』

監督『ククク、通行人Aくらいの役なら考えてもいいぜ』

女（――というやり取りが鮮やかに予知できる！　我が目に映し出される！）

女（さぁ、枕よ……我が胸に飛び込んでくるのじゃ！）

女（枕……枕……枕……）

女（MA・KU・RA！　MA・KU・RA！　MA・KU・RA！　MA・KU・RA！　MA・KU・RA！）

女（カモォォォォォォン枕営業ッ！！！）

監督「！」ｿﾞｸｯ

監督（なんだ、このおぞましい殺気は……！？）

監督（この子、私の見立て以上に素質があるのかも……）ｺﾞｸﾘ

演技力：S 妄想力：S 殺気：S

こいつの人生楽しそう

監督「いいだろう、使ってみよう」

マネージャー「ありがとうございます！」

監督「女主人公の後輩という重要な役なのだが、この子に演じさせたら面白いことになるかもしれない」

マネージャー「そんな役をもらえるなんて……」

マネージャー「よかったね！　大チャンスだよ！」

女「え、ええ……」

女（まさかのノー枕！？　じらしよって！　ええい、“枕への道は一日にして成らず”か！）

撮影初日――

マネージャー「あ、大物俳優が来たよ。しっかり挨拶しよう」

女「うん」

女「おはようございます！」ﾋﾞｼｯ!

俳優「おはよう」

女（俳優相手に枕営業する事例も聞いたことがある……私はいつでもOKだぜ！）ｷｯ

俳優「……！」

俳優（この子、私相手でも一切物怖じしないとは……大物になるかもしれないな）

マネージャー「主演女優もやってきたよ。さすがにすごいオーラだね」

女「おはようございます！」ﾋﾞｼｯ!

女優「おはよう」

女優「あなたまだ新人らしいけど、期待してるから頑張ってね」

女「はいっ！」

女（主演するだけあってなんてえ美人だ……同じ女なのに生唾が出てきた）

女（同性相手との枕営業……アリだな！）ｺﾞｸﾘ

女優（やだ、すごいオーラ……！　この子、私以上の才能を……！？）

監督「じゃあ撮影を始めるよ。皆さん、よろしく頼む！」

女（枕営業で得た仕事ではないとはいえ……全力を尽くさねばならぬ。それがプロの女優といふもの……）

女（きっと戦いに赴く鎌倉武士たちも、このような気持ちだったのであろう……）

女（いざ枕ァァァァァッ！！！）



…………

……

女優『今日は飲みに行くわよぉ〜』

女『とことん付き合いますよ、センパイ！』

女優『“男は度胸、女はクソ度胸”よ！』

女『その通りです！』



視聴者A「主演女優はさすがにこなれた演技だけど……」

視聴者B「この後輩役の女優もいいよな。こりゃきっと売れるぜ」

マネージャー「あのドラマ、視聴率すごくいいし、君の演技も好評だよ！」

マネージャー「きっとこれからどんどん仕事が増えるよ！」

女「ありがとう！」

女（そして、こやつはこう切り出すに違いない……）

マネージャー『誰のおかげで売れたと思ってる？　俺のおかげだよな？　つーわけでヤらせろ』

女（ふん……かまわぬ。褒美に抱かれてやる。枕ってやる）

マネージャー「じゃあ、今日はこれで。お疲れ様ー！」

女「！？」

女（なるほどな……もっと恩を着せてから、というわけか……この鬼畜外道め！）

……

女（今日も忙しかった……）

女（しかし、相変わらず枕営業は無し……。どいつもこいつもじらすねェ……）

チンピラ「――おい」

女「はい、なんでしょう？」

チンピラ「お前……女優の○○だよな？」

女「ええ、そうですけど」

チンピラ「ヒャッホー、マジかよ！　ツイてやがる！」

女「へ？」

チンピラ「んな売れっ子女優が一人きりでこんなとこ歩いてるなんてなァ！」

女「サインでも欲しいんですか？」

チンピラ「んなもんいらねェよ……ヤらせろ」

女「！！！」

女「今この場で？」

チンピラ「ああ……ここは人通りもねえしなァ！」

女（ほう、野良の枕営業……こういうのもあるのか！）

女「えーと、私に見返りは？」

チンピラ「ねえよ！　俺が気持ちよくなるだけだァ！」

女（見返り無しの枕営業……それもまたよし！）

野良の枕営業とか初めて聞いたわ

女「いいだろう……来いッ！」

チンピラ「な……！？」

女「カモン！」

チンピラ「え、え……！？」

女「どうした、怖気づいたかァァァァァッ！！！」

チンピラ「えええ……なんなのこの人……怖い……」

マネージャー「ウチの女優に何してるんだッ！！！」

チンピラ「ゲ！？」

女「マネージャーさん！」

マネージャー「やっぱり夜に一人は危ないとついてきてよかった……」

チンピラ「ケッ、マネージャー如きが俺を止められるとでも……」

マネージャー「あいにくだが、ちゃんと警察を呼んであるよ」

警官「署までご同行願おうか」

チンピラ「いやぁぁぁぁぁ！　すっごい敏腕！」

マネージャー「大丈夫かい？」

女「ええ」

マネージャー「しかし、さすがだね。あんな奴に襲われても、まるで平然としている」

女「そんなことない。とても動揺してるわ」

マネージャー「そうだよね。あんなことがあったんだから……」

女（またも枕営業ならず、か……逃がした魚はデカイのう）

女（まあいい。いつか必ずチャンスは巡ってくる……焦ることはない……）

マネージャー「このオーディション受けてみよう！」

女「頑張る！」

女（ついに枕か！？）

〜

映画監督「いい演技だった……ぜひ出演してもらいたい」

マネージャー「ありがとうございます！」

女（くそっ、枕はお預けか！）



その後も着々と実績を積み重ね――

誰かはよ抱いてやって

マネージャー「おめでとう、ついに主演が決まったよ！」

社長「よくやったな」

女「ありがとうございます……！」

女「ところで、どんな役柄？」

マネージャー「うん。ちょっと変わった名前の主人公で――」

女「……」

女（私にピッタリの役じゃねえかァ！！！）

ﾊﾟｼｬｯ　ﾊﾟｼｬｼｬｯ　ﾊﾟｼｬｯ

記者「このたびは初主演、おめでとうございます」

女「ありがとうございます」

記者「ドラマでは、倒産寸前の枕メーカーを立て直そうとする枕草子（まくらくさこ）を演じるわけですが……」

記者「どのような意気込みで臨みますか？」

女「はいっ、全力で枕営業してみせますッ！」







―おわり―

乙
枕草子ワロタ

実際枕上等くらいのスピリッツの方がのし上がれるのかもしれない